かねてより行ってみたいと思っていたマンダリンオリエンタルホテルのタパス モラキュラーバーに2012年1月下旬、行ってきました。スペイン・エルブジ(El Bulli)に代表されるモダン・スパニッシュが体験できるレストランです。奇しくも先日、ドキュメンタリー映画「エルブリの秘密」を観たばかり。グッドタイミング!
液体窒素やエスプーマでの調理が珍しくなくなった今、どんな料理で驚きと楽しさを提供してくれるのでしょう。約2時間のディナーコースをご紹介しますね。(大いにネタバレあり)
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タパス モラキュラーバーは、東京・日本橋のマンダリンオリエンタルホテル38階(最上階)のオリエンタルラウンジ内にあります。実はマンダリンオリエンタルに行くのは今回が初めて。地下鉄「三越前」駅直結の三井タワービルからホテルに続く扉を開けたとたん、空気ががらっと変わりました。
おお、ゴージャス! ラグジュアリー!
照明はぐっと抑えられ、赤とダークブラウンを基調とした内装は重厚でシック。
エレベーター内には革張りのベンチがあり、降り立った38階の中央には、大ぶりのフラワーオブジェとソファがありました。全面ガラス張りの窓からは、日本橋のビル群が眼下にのぞめます。
この日は女性3人で18時からのディナーコース。名前を告げると、オリエンタルラウンジで「お時間までお待ち下さい」と。なにげなくラウンジを見渡すと、一角にカウンター席がありました。どうやら、あそこがタパス モラキュラーバーのようです。
それにしてもゴージャスで気品のあるラウンジです。美しい。ことに天井照明のドレープシェード。ため息ものです。
【注意】このディナーコースは、予備知識無しで体験したほうが新鮮な驚きと楽しさが味わえます。この先はネタバレがあります。
18時になりました。係の方の案内によりカウンター席に着席します。カウンター内にはシェフが2名。席にはわたしたち3名と外国のお客様3名の計6名です。
外国のお客様には英語担当のシェフ、わたしたちには日本語担当のシェフがつき、以後、担当シェフの案内で料理が進んでいきます。
目の前にはシルバーのメニューボード。それをガラス製プレートの下に入れるように指示されます。そうすると、メニューがガラスから透けて見えるんですね。コース全体の流れがわかり、次のお皿への期待も高まります。
ウインターメニュー、スタートです。
ナプキンを膝にかけ準備万端!と目の前のショーケースを見ると、あれれ、食材の入った小さな器が宙に浮いています。しかもまわっているのです。速度はゆっくりだったり速めだったり。磁気の加減でこうなるのでしょうか。いきなり不思議の世界です。
面白いなあと見ていると、その上のカウンターでは「食前酒」の用意がすすんでいました。
白い煙を漂わせグラスに液体窒素を注いでいったかと思うと、今度はそれを戻していきます。
そして差し出されたのがこれ。表面のみが凍っています。スプーンを軽くあてると、ほろっと薄氷が割れて赤いお酒が顔を出すという趣向。いきなり液体窒素。嬉しくなりましたねえ。
この「食前酒」の後は、シャンパンをいただきました。このコースは、品数が多いとはいえ、通常のディナー同様、前菜、魚料理、肉料理、デザートという流れなので、ワインなら、(泡)白→赤でうまく合うようになっているんですね。
次に出てきたのは、この肉団子のようなもの。メニューには載っていなかったのですが、台座も球になっていて、ぽよよ~んとボールが揺れます。ぱくっと食べると、あれ?あったかいオリーブ?
続いて「クリスタルポテト」。薄い氷のようなものがポテトなんです。確かに食べると・・・じゃがいもだぁ(驚)
そして、赤い毛糸? さくさくしてますよ。ほんのり甘くて美味しい切り干し大根みたいです。その名も「紅芯大根の毛糸玉」。
「鯛茶漬け」。鯛のお刺身と左の葡萄の粒のようなものに出汁が入っているんです。一緒に口に含むと、粒が弾けて、ああ、鯛茶漬け。
お口休め。中はケソ・マンチェゴのアイスクリームです。うまっ!
シェフに尋ねれば、具体的に食材や調理法を教えてもらえますが、あえて聞かずに推理してみるのも面白いですね。なんだろ、なんだろ、この味は…って。
▲ バカラオのエスプーマ
下のオレンジ色のクリームはピキージョ(赤ピーマン)のよう。それを上のバカラオ(たら)の泡クリーム(エスプーマ)やスプラウトとまぜていただきます。薄いカリカリのパンがいいアクセントに。
どの料理もいただく前に、食材や食べ方などの説明があるのですが、料理の美しい姿にの目を奪われて半分も聞いていないんですよねえ。味わってから、「これ何でしたっけ?」「なんでこんなになるの?」
「へええ~、おいしい!」とバカラオのエスプーマを味わっているとき、目の前では次のお皿が準備されていました。
シェフの動作は手際よく、美しく、無駄がない。盛りつけの過程が見られるのは勉強になりますね。スペースの使い方、配置、彩り。ずっと見ていて飽きません。
それにしても、目の前のショーケースにディスプレーされているのは、炭、金柑、いちご・・・。はて?
▲ たらば蟹とハモン
右側の四角いのはグレープフルーツだったかな? ピスタチオの粒でラインをひき、極薄ハモン・イベリコの脂をまとったたらば蟹、手前に塩味のするソルトリーフ(アイスプラント)と泡。
この泡、何味だったかなあ、もう忘れてしまいましたが、別に思い出さなくてもいいくらい、たらば蟹がおいしかったんです。めちゃめちゃおいしかったんです。うっとりするくらいおいしかったんです(←うるさい!)
感激にひたっていると、目の前では、シュッ、シュッ、シュッ。
ああ、大好きな黒トリュフだ~~。
▲ 黒トリュフ ゆり根
百合根がクリーム状になっていて、なんかソースがかかっていて(もうなんでもええわい!)、その上にトリュフ。高貴な香りが漂って、うわ~~ん、し・あ・わ・せ。
続いて、またもや、シュッ、シュッ、シュッ。
▲ フォアグラ コーヒー じゃがいも
そう、凍ったフォアグラが削られていたのです。丸いのが小さなじゃがいも(キタアカリ)。それにコーヒー味のソースがかかっています。
フォアグラにコーヒーにじゃがいも。合うのか?
合うのです。しっくり合うのです。
くるんとまるまったフォアグラは、口の中ですうっと溶け、かわいいじゃがいもはコーヒー風味のソースをまとってほくっと崩れ、今まで味わったことのない世界に連れて行ってくれます。計算しつくされた味ですな。
▲ イベリコの秘密
続いて、透明なカップで蓋をされた「イベリコの秘密」。カップの中にはスモークが充満しています。カップをとると、ふわっと燻製の香り・・・だったと思う。(もう記憶があやふやです)
イベリコ豚のセクレト(秘密という意味で、1頭からわずかしかとれない部位にある霜降り状のサシが入った赤身肉)を使っているので、「イベリコの秘密」というネーミングなのだけれど、このセクレトが噂に違わず美味で、それを下に敷いてある金柑のソースでいただきます。
ん? 金柑。
▲ ショーロンポー
見るからにラムチョップのようだし、骨の先についているのはケバブのようだし。と考えていると「ひとくちでどうぞ」と。白いヨーグルトソースをつけて、ぱくっと食べると、じゅわわ~。中からスープがあふれ出てきました。ああ、そうか、ショーロンポーのあの肉汁ジュワッが再現されていたんですねえ。
羊はあんまり得意ではないのですが、このラム肉のショーロンポー風は癖が抑えられていてマイルドで美味しい。その後、添えられていた小さな青桃を口に含むと、フルーティな甘酸っぱさがふわっと口の中に広がって、ラムの脂がほどよく調和されました。
▲ 和牛
続いて今回のメインディッシュといいましょうか、真骨頂「和牛」。すべてが真っ黒で炭のような姿にびっくり。あ、炭ですねえ。ということは、ショーケースにディスプレーされているのは、コースの中で使われている食材のようで……。なるほど。
和牛が乗ったプレートの後ろには、こんな炭焼きを連想させる演出がなされています。左側は火がともされ、かすかにパチパチと木が焼けて弾ける音。右側はクリーム状のバターで芯はサフラン。く~~、凝ってます。
この黒い溶岩石のようなものはパン、右の丸太はごぼうです。竹炭パウダーで黒くしているようですが、真っ黒にもほどがあるほど真っ黒です。ごぼうなんて、炭そっくりじゃないですか。
この色と形状に驚いている場合じゃありません。外は真っ黒ですが、中は真っ赤に熾った石炭のごとく色鮮やかな肥後和牛の、なんと柔らかいことよ!
低温調理だったかな、いや、それはイベリコ豚の時だったか。もう、どんな調理法だったのかなんて、どーでもいいです。うまいっ! ボリュームもあり大満足。
肉類が続いたことで、かなりお腹も満たされ、少しさっぱりしたものが欲しいなと思ってるところに出てきたのが、これ。
▲ 味噌汁
味噌汁。どこが? と聞きたい形状(おそらくアルギン酸ナトリウムを使ったテクニック)なのだけれど、味はまことに味噌汁そのものです。
白いつぶつぶがお豆腐、ぽってりまるまっているのが味噌汁、上にかかっているのがネギパウダーで、これを一気に口に流し込むと、三位一体となっておだしのきいたお味噌汁が口いっぱいに広がるのです。
しかしながら、この味噌汁の玉がめちゃデリケート。一度盛りつけても、なにかの拍子にひゅんと壊れてしまうんですね。
壊れてしまっても、シェフは慌てず騒がす、にこっと笑って何事もなかったかのように、最初からやり直します。ひょっとして、これもパフォーマンス?
デザートに突入です。ミラクルはまだまだ続きます。
100円玉ほどのミントの粒。シェフが魔法をかけて差し出してくれます。口に入れてかみ砕くと、鼻から口から、白い冷気がぶわ~、ぶわ~(笑)怪獣になった気分。楽しい!
タイトルは「白い吐息」。実際はそんなおしゃれな感じじゃなかったけど、確かに白い吐息でしたねえ。
▲ 雪
雪がふっています。
苺の上の氷の結晶がかわいい。そしてディスプレーで暗示されていたとおり、ここで苺が出てきました。
最後に登場したのが、じゃーん。このプチフールツリー。
不思議な綿菓子、「モンブラン」「オリーブオイルグミ」「トリュフチョコ」「ラズベリーソーダ」。意外な味、面白い食感で、いろんな小技芸を見せてくれます。
そして最後の最後。フルーツです。
お皿の突先にのっかっているミラクルフルーツを舐めて、すっぱいレモンやライム、オレンジを食べると・・・。みらくる~~(笑)
甘いんですね。これ、知ってはいたけど体験するのは初めてで、なるほど、ほんとだわ~って嬉しくなりました。
以上でディナーコース全品が終了。
料理とシェフに気が行ってしまいがちでしたが、サービスも心地よかったですね。サービスされていることを忘れてしまうほど、ごく自然にカトラリーが変わり、水が入り、お皿が消えていきました。
食事が終わると、記念にはがきサイズのメニューがいただけます。
2時間のめくるめく美食のエンターテインメント。いやあ、楽しかったです。忙しかったです。写真とってる場合か!ってな時でもカメラ構えていましたからね。
撮影OKで、シェフの方とも気さくに話せて、わたしにとっては美食のディズニーランド。というか、食材の組み合わせの妙と最先端調理法で楽しませてくれた、いわばエルブジランドのようでした。
せっかくのマンダリンオリエンタル。すぐに帰るのはもったいないので、夜景を見ながらお茶を…。
ライチの香りのハーブティをいただきながら、優雅に楽しい時間を振り返ります。
趣向を凝らした季節感のある皿の数々、構成、段取りよく披露する一連の流れ。素晴らしかったなあ。
いまやエルブジ風の料理を出す高級レストランは、スパニッシュに限らずいくらでもあるけれど、モラキュラー(分子)料理にこだわり、最新調理法を駆使して、食の楽しさ・面白さをショー的要素を加えて体験させてくれるレストランは他にないですね。その徹底ぶりに感服です。
季節ごとにメニューが変わるそう。機会があればまた…。
(2012年1月訪問)
■タパスモラキュラーバーのおすすめシーン
限定8名までのカウンターなので、カップルでデート、友人同士・家族2~3人でお誕生日や結婚記念日などのお祝い、記念イベントに最適です。
【PR】レストラン予約・クチコミ
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東京・日本橋の6ツ星ホテル「マンダリンオリエンタル東京」(2005年12月開業)の最上階(38階)オリエンタルラウンジ内にあるタパスバー。化学的調理法を用いた料理20品ほどがシェフのパフォーマンスとともに楽しめる。カウンター8席で、毎日18時と20時30分からスタートの1日2回のコースのみ。要予約。ミシュランガイド2015にて1つ星を獲得して以来、1つ星を維持。
東京都中央区日本橋室町2-1-1 マンダリンオリエンタル東京
※当レポートは、2012年1月訪問時の情報をもとにしています。レストランご利用の際は最新の情報をご確認ください。
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