京都に行くんだけど、どこかいいお店ないかしら?と、わが食の師に尋ねたところ、すすめてくれたのが祇園「大渡」です。
新進気鋭の人気店で半ばあきらめていたのですが、幸運なことに2席ならなんとかなるということで、ぎりぎり入れてもらいました。
2010年のレポートです。よろしければ…。(価格も体制も当時のものです)
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場所は京都、祇園。東山の八坂神社の近く。東大路通りから少し入ったところの一軒家です。
玄関を入ると、すぐ目に飛び込んできたのが、ふすまに書かれた迫力ある「一所懸命」。店主・大渡さんの心意気が伝わってきますね。靴をぬいで上がり、廊下を通ってカウンターのある部屋に入ります。
全部で8席というこじんまりとしたお店ですが、カウンターが広いせいか、狭さは感じません。カウンターの向こうには、かまどが2つ、炭火の焼き場もあります。
すでに一組お客様が入られていて、私たちが加わり6人でスタートです。
ちょっと緊張しつつ、飲み物は「とりあえず、ビールで」。その後、日本酒をいただきましたが、シャンパンやワインもありました。
「きょうはどちらから?」などとお客様と話しながら、てきぱきと休み無なく立ち回る大渡さん。そうです、接客から調理まで一人でこなしているのです。
特にメニューはなく、おまかせコース(10,500円)のみ。赤いお膳を配したかと思うと、すぐさま6人分の小鉢になにやらクリームをかけています。
まず、秋鯖と茄子と無花果。
このクリームは何でしょう。分厚い秋鯖にからめていただきます。豆乳でできているのかな? かぼすの酸味のきいたなめらかなクリームと秋鯖とがよく合います。鯖のお刺身はたぶん初めて。うまい。むっちりとした身がたまりません。
これをいただいている間に、大渡さんが切っているのは大きな松茸。あれがそのうち出てくるんだな、何になるのかな、とわくわくします。それにしても、大きすぎる松茸!ほんとに松茸?
鱧のすり流し。菊の花びらが、秋らしいですね。「わさびが入っているので、混ぜて溶かしてからどうぞ」と。軽くまぜると、箸先になにかがあたります。
小さなお餅が入っていました。上品なお味。おいしい。
そして出ました。さっきの松茸。フライになってました。お好みでどうぞと、ウスターソースが添えられます。
まずはかぼすだけ絞って。口にいれると、ほんわりとなんともいえない香りがひろがり、鼻に抜けていきます。ああやっぱり松茸だ。こんなに肉厚の松茸、幸せ~♪
続いて出てきた蓋付きの器。何が入ってるんだろうと、蓋をとると、いくらがたっぷり。その下に入っているのは……
ごはんでした。いくらがいっぱいで見えませんでしたよ。かすかにゆずの香り。ぷちぷちのいくら。おいひ~♪
と、しみじみ味わっているそのとき、大渡さんは必死にわさびをすっていました。
そして、出てきたのがさわらです。すりたてのわさびが添えられています。
炙った皮が香ばしく、身はしまっていながら柔らか。脂っぽくなく凝縮された旨みが舌に絡みつくようでうなります。たとえがヘンかもしれませんが、スモークサーモンのような、ぬぬっとした食感。
聞けば、なにかに2日間つけて余分な脂を取り除いているそうで…。調理法はともかく、こんなさわらのお刺身をいただいたのは初めてです。
ああ生きててよかった。
次の椀物。準備ができた段階で、茶筅で器にぱっぱと水をかけて露うちをしています。懐石料理の習わしでしょうか、夜露にぬれたお椀が出てきました。
ここは一品ごとに料理だけじゃなくて器も楽しめるんですよね。椀の蓋の裏には、うさぎとお月さんが描かれていました。粋ですね。
毛ガニと汲み湯葉のかにしんじょのお吸い物。ふわふわです。ここにも松茸が入っていました。ゆずの香りほんのり。
かなりお腹いっぱいになってきたのですが、まだまだ続きます。雲子の九条ねぎあんかけ。たっぷりのねぎの下に雲子(鱈の白子)が隠れています。油で揚げられた雲子はぷりぷりしてて、口に含むと濃厚な旨みがとろけます。しゃきしゃきした九条ネギとゆずがきいて、意外にさっぱりといただけました。
大渡さんは、串に刺した魚を何度も返しながら焼いています。炭は来たときからずっと熾っていて、いつ使うのかなと思っていたら、やっとです。
そうして皿に盛られたのは、まながつおでした。軽く味噌漬けにしてあり、味が付いているのでこのまま芽ねぎを添えていただきます。ほおづきのような、ストロベリートマトがかわいい。
そして、天然うなぎと冬瓜のあんかけ。
やわらかく優しい味わいの鰻と、だしがしっかりしみた冬瓜のうまさよ。あんがまたおいしくて、おなかはもういっぱいなのだけれど、するすると入っていきます。
最後は、香の物と山椒ちりめんと白ご飯です。
お漬け物はすべて自家製。しば漬けは奥様のお父様が漬けられたものだそう。このあたりでは、みんな当たり前のように自宅でしば漬けを作っておられるんですね。きりっと塩がきいて昔ながらのシンプルなおいしさです。
ご飯は炊きたて。そういえば、まながつおをいただいているとき、お釜から湯気があがっていました。ちょうど炊きあがるように、火を入れていたのですね。
お腹の入り具合を聞いてくださって、「もうおなかぱんぱんです」と言うと、軽くお茶碗によそってくれました。ここで食べ足りない人には、すき焼き風の牛丼にしてくださるそうですが、もうもうわたしは入りません。
デザートは、わらび餅。黒文字にお箸が添えてあります。懐石料理を食べ慣れないわたしは、一瞬、お箸がばらばら?なんて思ってしまって、お恥ずかしい限りです。
わらび餅はとてもやわらかくて、びよ~んと伸びる伸びる。ほどよい甘さで、満腹でもつるんと入ってしまいました。
お抹茶をいただいて、ごちそうさまでした。
いやあ、大満足。どれも素材の良さを引き立たせた上品で繊細な味わいにうっとりでした。こんなに一品一品丁寧に作られたものを、ちょうどよい頃合いで出してくれて、最高の状態で食べられるなんて、本当にぜいたく。
しかも、大渡さんはてきぱきと調理しながら、ユーモアあふれる会話で場をなごませ、待っている間も楽しませてくれるのです。1人で大変そうなのだけど、1人何役もこなすワンマンショーを見ているようで、その仕事ぶりにも拍手を送りたくなります。
評判が評判を呼び、予約が取りづらくなっていますが、京都・祇園あたりでお食事をするなら、ぜひ一度。
【2019年追記】現在はお弟子さんがいらっしゃるようです。予算は1人2〜3万円で。
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2009年8月、京都・祇園にオープンしたカウンター8席の割烹料理店。店主の大渡さんは、大阪「津むら」(現在は閉店)で腕を磨いた後独立。その味を引き継ぎつつ、新感覚を取り入れた料理には,遠方から通うファンも多い。コースはおまかせのみで、お値打ち感充分。四季折々の食材を丁寧に調理する様がカウンター越しにうかがえる。ミシュラン大阪・京都・神戸で2011年以来1ツ星、2016年には2ツ星獲得。
京都市東山区祇園町南側570-265
※当レポートは、2010年10月訪問時の情報をもとにしています。レストランご利用の際は最新の情報をご確認ください。
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