セニョーラ・あ〜の気ままな食卓

プレミアム8「“愛と胃袋”スペイン」角田光代のバスク

テレビ番組の中で、スペイン料理に関する部分をメインに記録しています。

■番組データ

タイトル・放送局:プレミアム8「“愛と胃袋”スペイン」角田光代のバスク
(NHK BS-hi)

放送日・時間:2010年10月19日(火)20:00~21:30

ジャンル:紀行ドキュメンタリー/ドラマ

スペイン料理出現度:70%

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バスクの料理といえば、豆のスープと塩だら料理

番組内容

「直木賞作家が食べて書くヨーロッパの田舎」シリーズのうちの第3回。角田光代さんがスペイン・バスク地方を訪ねました。ちなみに、第1回は井上荒野さん(イタリア)、第2回は森絵都さん(フランス)、第4回は江國香織さん(ポルトガル)。

番組では、角田さんがバスクで食べ、現地の人にあって取材する様子がドキュメントで紹介され、続いて、そこでの取材をもとに書かれた短編小説をドラマ化してオンエア。現地での取材や体験が、どのように作品に昇華されるのかがわかる面白い構成でした。

番組内でよく登場したのが豆のスープ。角田さんが地元の人々に「バスクらしい料理といえば?」と尋ねると、皆、豆、豆と応えるのです。また、家族経営のレストランや会員制の美食倶楽部「ソシオ」(バスク語でTXOKO チョコ)を訪れ、家族や共同体としての絆が強いことにも着目。自身の体験を重ねて創作し、最終的に「神様の庭 アイノアの豆スープ」というドラマで映像化されました。

ちなみに角田光代さんの「神様の庭」は、他の3人の作家の作品とともに「チーズと塩と豆と」(ホーム社)に収録されています。

スペイン料理メモ

【サンセバスチャンの旧市街のバルにて】

ピンチョスは、もともとパンに具をのせ、Pintxo(ピンチョ)=串にさしたおつまみであったが、現在ではパンに載せただけのものもピンチョスという。

薄切りバゲットパンの上に、アンチョビ、ゆでたまご、マヨネーズのようなクリーム、すりおろしチーズをかけてピンチョスのできあがり。このようなピンチョスが大皿に盛られて、幾種類もカウンターに並べられている。

バルではチャコリ(バスク原産のオンダリビ・スリ種から作られる微発砲の白ワイン)を飲みながら、カウンターに並んだ大皿のピンチョスを指さして注文する。

チャコリを1杯飲む間に2~3品食べたら、次のバルへ行く。だいたい3~4軒は行く。このバルのはしごを「Txikiteo(チキテオ)」という。

コンスティトゥシオン広場の角にあるこのバルのマルティネス兄弟は双子でヘススは調理、ミゲルは接客担当。いわし料理が得意で、新鮮ないわしが手に入ったときは、フリットにして出してくれる。これはメニューにはなく、ひいきのお客様にだけ。角田さんにも供され、おいしそうに食べていた。

【シスルキル村の小さなホテルにて】

サンセバスチャンから、南へ20キロほどのギプスコア県シスルキル村。山々に囲まれた牧畜と酪農の村で、見晴らしの良い丘の上にあるホテルに宿泊。このホテルの経営者の家族であり女性登山家のエドゥルネ・パサバンさんに話をきく。

彼女にとってのバスク料理といえば「黒いんげん豆のスープ」。バスク地方トロサが名産地の黒いんげん豆を使ったスープで、豆を一昼夜水に浸したあと、水と塩でことこと煮て、仕上げにオリーブオイルをたらす。金時豆ぐらいの大きさで赤茶色の素朴なスープだった。煮崩れて、まるでぜんざいのような趣。

山でも豆のスープはよく作った。沸点が低いので圧力鍋で作る。家では豆料理や塩だら料理をよく作るそうだ。

【地元の人たちに愛されるレストラン「スベロア」にて】

オイアルツン村の家族経営のレストラン。イラリオ・アルベライツさんが料理長。伝統的な塩のきいた料理を作る。

バスクらしい料理として作ってくれたのは、ひよこ豆のスープ「ガルバンソ豆のポタージュ ベルサ添え」。ベルサはじゃがいもとキャベツをくたくたに煮たもの。それにひよこ豆のポタージュが注がれ、クルトンと緑の葉が添えられている。「しょっぱくておいしい」と角田さん。

もうひとつバスクの代表的な料理は、塩だら料理。「たらのピルピル」を現代風にアレンジしたもので、たらの油とオリーブオイル、にんにくで作ったピルピルソースにグリンピースを混ぜ合わせたものを皿に敷き、その上に塩抜きをしてもどした鱈のオーブン焼きを盛る。カール状のおせんべい(たとえばチーズをカリカリに焼いて丸めたようなもの)と食用花が飾られる。

【「ムガリッツ」の契約農場にて】

「ムガリッツ」のアンドニ・ルイス・アドゥリスの案内で、契約農場に行く。農場のホセ・マリさんは、ムガリッツで使われる野菜と果物を有機農法で作っている。土を見て「うまそう」というアンドニさん。「野菜の味は土の味だ。土の香りがしみこんでいる」

【ソシオ(美食倶楽部)にて】

ソシオはバスク語で「TXOKO」(チョコ)。以前は男性のみがメンバーになれる会員制のサロンだった。みんなで集まって食事を作り、飲んで食べる。会員は職業や地位に関係なくみな平等。メンバーになって初めて一人前と見なされた。入会するには、総会を開いて皆の同意が必要。年会費100ユーロ。最近は奥さんや恋人を招待してふるまえるようになった。

【予約が取りにくい人気レストラン「ムガリツ」にて】

アンドニさんによる芸術的な一品は、「海岸の香草や野草の中にあるカンタブリア海のカツオ」。ビスケー湾であがったかつおの切り身に軽く火を通し、海草と野草をすりつぶしたペーストをぬる。茎野菜のマリネをつけあわせ、海岸に咲く花のエキスを抽出したスープを添えてテーブルに出す。

コンソメスープはティーポットに入っていて、茶葉を入れるところにフレッシュハーブ&フラワーが入っている。食べる直前に皿に注ぐと、フレッシュハーブのさわやかな香りと味が、かつおの放つ濃厚な海の香りと合わさって絶妙なアンサンブルを奏でるというわけ。

角田さんはなぜか眉間にしわを寄せて「うま~い」。そして笑顔。「これはなんだろう」とその味の秘密を確かめるように口に運び、ミントが入っていたようで「あ、ほんとだ。でも、すっごく優しいですね」。

かつては様々な食材を使って派手に作っていたが、そのうちミニマムに素材の素晴らしさを引き出すことに気づいたアンドレさん。さらけだして、素材の良さを引き出すということで「ヌード」という言葉を使っていた。

食材は道具。世界中どこのレストランに行っても、ファアグラ、トリュフと同じ材料で同じように食べるのは味気ない。同じ材料を使っても、その土地それぞれの調理法、味付けの工夫が必要。最後に残るのは、その土地の食文化のオリジナリティだと。

アンドレさんにとってのバスク料理は「メルルーサとあさりのグリーンソース」。母はおうちで、父は町のソシオでよく作っていたそうだ。

【サンセバスチャンの新市街のバルにて】

「ムガリッツ」のアンドニさんが紹介してくれたのは、新市街のバル「norru」。ピンチョスではなく、温かな料理を小皿で出してくれる新しいスタイル。注文を受けてから一品ずつ作られる。

「夏野菜と手長えびのソテー イベリコハムのコンソメかけ」
小鉢ほどの器に、夏野菜(小にんじん、茎野菜、じゃがいも?など)と殻を剥いたえびが一尾入っていて、ハモン・イベリコの破片が散りばめてある。それにコンソメをかけてくれる。

「夏きのこのリゾット フォアグラのソテーのせ」
楕円の皿に3口ほどで食べられる量のきのこのリゾットが盛られ、その上にフォアグラが載せてあり、薄いパンが立ててある。その上からグリーンソースかバジルオイルのようなものがかけてある。皿には曲線を描いたブラウンのソースがひいてある。

【山の上の「アイトーラ サアール食堂」にて】

アイトーラ サアール食堂のマイアテ・ベスガさんは、カクタの山(1030m)が見える牧場で、リモシン種の牛を育てている。飼料は与えず、牧草地にいい草が生えるように気を配る。

食堂で生後12か月の仔牛を食べさせてくれる。肉はピンク色で、さしは入っていない。塩だけで炭火焼きにする。塩は多め。肉はかみ応えがあるが、やわらかく、肉の味がしっかりしてそうだった。現地では、カクタの肉として有名なのだとか。(奇しくも角田さんと同じ名前で驚く)

マイアテ・ベスガさんにとってのバスク料理といえば、インゲン豆の料理。かつては、豆しかなくて、インゲン豆を食べるか食べないかしか選択肢がなかったという。それほど豆料理の印象が強いのだそうだ。

(2010.10)

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